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2006.10.04

短編小説:月光の雫滴る

※ 一部グロテスクな表現が有りますが、グロテスクそのものを描いた作品ではありません

 驟雨。
 アスファルトがじっとりと濡れている。
 否。赤黒く染まる其れは、雨の所為ではなく。
 血だった。夥しい血液。
 雨に晒され、白く色の抜けたものが横たわっている。
 布切れからはみ出した二本の棒状の力無きものは、かつて腕と呼ばれたものだ。
 雨上がりの雲を散らした空に冴え冴えとした光を放つ月が浮かぶ。
 明るい黄金色の雫を地上に滴らせている。
 月光を浴びて立ち尽くす少年が真っ赤に染まった両掌を凝視する。二つの球体が神経の糸を引きながら転がっていた。其れを見つめる瞳には意思の色は見えずに、鈍く濁りを帯びている。足元に横たわるものからはもはや躍動していた頃の生命のぬくもりは感じられはしない。
 血溜まりに雨の粒が撥ね、幾重もの波紋を呼ぶ。
 いつの間にか少年の回りを数多の猫たちが環を描き。
 なぁーお、と鳴いたそれらの表情は確かに名状しがたい嗤いで歪んでいた。

 式王子港署の一室。
 川瀬は咥えている煙草の灰が机に垂れるのにも気付かないほど、熱心にテレビ画面を見つめては唸っていた。
 またもや殺人事件である。
 ここ数日で、全国規模で凶悪殺人の件数が一気に急上昇していた。怨恨や痴情のもつれでは説明出来ないような……夜半の公園や廃工場といった場所で死体が発見され目撃情報も少ない、そんな通り魔的な犯行である。被害者は住所不定のホームレスや家出中の少年少女。失踪しても分からないような人間に集中していた。また、川瀬の眼を惹くのはそれだけでは無かった。報道規制が敷かれているので世間一般には知られていないが、幾つかの事件には共通項があり、有り体に言えば、遺体の一部が欠損しているのだ。
 同僚の古賀刑事が集めた資料の一例によれば、
 眼球。十指の爪。もぎ取られた顎部。毛髪付きの頭皮。大脳。肋骨周りの肉片。耳。大腿部。胃臓。乳房……そして残留するには少なすぎる血液。
 事件同士の繋がりがあるとの確証たる根拠は無い。だが、通り魔的な犯行だけでは済まされない猟奇的な殺人に何か、儀式的、カルト的な気配を川瀬は感じていた。憤懣をぶつけるかのように、フィルターだけになったゴールデンバットを灰皿に捻じ込む。
 警察庁統計では、年間の行方不明者、実際に警察に届けられた家出人捜索願数は十万三千人。捜索願なしの場合を合わせると推定二十万人。約、九・五万人は発見保護されているが、残り半分は未解決のままだ。十代の反抗期による家出が殆どだが、折りしも川瀬は式王子港署に届けられた家出人捜索願の資料を読んでいたところだった。今回も捜索願者の自宅を訪問し、繁華街を中心に聞き込みをすれば見つかる、そう踏んでいた。
 
 名前:ルナティック [sage]  ID:???
 こんにちは、クトゥルフオンラインサービスチームです。
 月見の季節となりました。これにちなんで、各地において、
「月に吼ゆるもの」の召喚儀式を開催します。座標の公開はいたしません。
 狂信者となり儀式に参加するもよし、もしくは邪神を狩るものとして、儀式の阻止に徹するもよし。
 普段から培われた皆様の腕を競い合う良い機会です。どうぞ振るってご参加ください。  それでは、今後とも『クトゥルフオンライン』をよろしくお願いいたします。
 
 名前:ルナティック [sage]  ID:???
 こんにちは、私の主催するギルド『ハイヨル☆コントン』は儀式参加側に加担いたします。ギルメンの方々にはメールで連絡を取り合うこととします。
 よいハイヨル☆コントンを期待します。
 
 名前:空鬼 [sage] ID:???
 時空連続体ヨリ早速参戦。爪ヲ奉ゲル。紅き血潮ト供ニ。
 
 名前:クラネス [sage] ID:???
 いあいあ! ルナティック殿、わしも参加してみようと思うのじゃ。うむむむ、狙うは眼球じゃな(嗜好でまくりじゃろうか)。腕がなるわい。
 それではよいハイヨル☆コントンなのじゃ。
 
 名前:星の精 [sage]  ID:???
 クスクスクス。面白そうですねぃ。ハイヨルー。うっかり召喚されたよっ! 
 クスクスクス。吸入口ぶっ刺してたっぷりと吸引するぜ(何
 
 名前:ルナティック [sage]  ID:???
 空鬼さん、クラネスさん、星の精さん、
 儀式参加、確認しました。各地盛り上がっているようですね。
 私も微力ながら参加していますよ。今回は肝臓狙いで行きました。タッパーがぎっちりで重かったw
 そろそろ祭りの日を考えないといけませんかね。
 それではよいハイヨル☆コントンを。
 
 名前:アーミティッジ [sage] ID:???
 儀式の場所は見つけたが、妨害し損ねてボロボロになりながら逃げ帰ってきた。

 名前:カーウィン [sage] ID:???
 ルナティックさん、ハィヨルー
 胃って、にゅるんとして酸っぱぃよぅな饐ぇた臭ぃがして選択誤ったかも。
 まぁぃぃけどさ。ちなみに中身は搾って棄てました。げろんちょだぉー。
 タッパーに即ぶち込み。百均ってこんなとき便利だって思ぅナリィ。
 
 比良野琴音は、内向的ではあるが礼儀正しい。
 ごく普通の大学生。川瀬が古賀と聞き込みを行った上での印象がこれである。読書好きで、大学ではよく図書館でその姿を目撃されており、講義への出席率も良好。男女関係も乱れているわけではなく、当たり障りのない付き合いをしていたようだった。
 両親の許可を得て彼女のPCを調べ分かったこと。熱狂と言ってよいほど琴音が凝っていたのが、インターネットの大型掲示板[無名都市]への書き込み、閲覧だった。
 [ムメイナビ]という掲示板書き込み専用のブラウザに残っていたログが上述のものである。ネットゲームサロンというカテゴリ内にある「クトゥルフオンライン」というゲームについてのやりとりに琴音は没頭していたようだった。
「川瀬さん、検索してみましたが、「クトゥルフオンライン」というゲーム。ソフトとしても発売されていないし、ダウンロードタイプのゲームでもないみたいですね」
 古賀がPCのモニターを見つめ、顔を上げずに報告する。
「ふむ?」川瀬にはゲームのことは良く分からない。PCやゲームに詳しい古賀に一任して琴音の本棚を調べていた。ポー、ダンセイニ、ホジスン、ラヴクラフト。
「つまり、架空のやりとりと言うことです。検索数こそ一万近く出ますが、彼女らはありもしないゲームについて、ネットで語り合っていたってことです」
 胸まで伸びた長髪で眼鏡をかけたその顔は理知的で、冷酷な感じもするが、綺麗な面立ちをしていた。川瀬は資料に添付された顔写真に目をやる。
「架空のゲーム内で、ギルドという集まりを設けて、その集まりに参加していた、と言えば分かりやすいでしょうか」
 ゴールデンバットのフィルターをしがみながら川瀬はスレッドのログを苦虫を噛み潰した表情で眺めやる。匿名掲示板でこんなにもあけすけにグロテスクな会話を書き込む連中の思考回路がまるで掴めなかった。ただただ虫唾が走る。それに単語が引っかかるのだ。爪、血、肝臓、胃臓……無意識に先日までの猟奇殺人との共通性を探していた。
「ルナティック、こいつが比良野琴音のハンドルか?」
「それはまだ、なんともですね。掲示板運営会社に情報開示請求して、通れば分かるでしょうが。ただ、確かにこのルナティックと名乗る人物を中心にコミュニティが形成されているのは事実でしょう。或は扇動役とでも言うのか」
 古賀が琴音のメッセンジャーを立ち上げる。これはリアルタイムに登録したメンバーと会話が出来るコミュニケーションサービスである。
 そこに登録してある名前はクラネス、エイボン、ギルマンなど、十人近い名前の羅列だった。空鬼、アーミティッジ、カーウィン……。オンラインのものは一人もいない。
 厭な予感がした。   
 
 私の居る場所。自由に振舞える場所。
 月光が雫となって滴り落ちる、この昏い夜に棲み潜む。
 屍者の口唇の如き、青褪めた月の明るさが私を狂わす。
 私は眷属。夜の眷属。昼の陽光はマヤカシに過ぎない。
 私は眷属。這い寄る混沌。不定形に漣をたたせフルートを奏でる。
 私は眷属。血を啜るもの。飲み干しても飲み干してもまだ足りぬ。
 月夜も闇夜も私の棲家。祝祭だ。快哉を叫ぼう。
 祝祭だ。月に吼ゆるもの。月光を浴びるもの。私は召喚する。
 
 川瀬と古賀は、琴音の持つ携帯電話の発信電波を辿った。学生であり、持ち出した財布の中身はそう無いと読んだ。銀行や郵便局からの出金も無い。家出人捜索願が届けられて三日のあいだ、二人は隈なく市内を聞き込みして歩いていた。確実に絞り込んでいる、そんな手応えはあったし、交通課の婦警たちに古賀が声をかけてもいた。
 そして四日目の夜。
 完全に陽は暮れ、十六夜、と形容するのだろうか、完全な円形に浮かび上がる月が地上を照らし、街灯の明かりさえ凌駕するほどである。夜の虫が啼いている。
 二人は屋敷森公園のベンチでぼんやりと座っている琴音を見つけた。周りの様子などいっかな気にかけることもなく熱心に携帯電話のボタンを操っている。
「おい、君。比良野琴音さんなのかい?」
 古賀が声をかけると同時に川瀬は琴音の背後に回っている。事件の被疑者ではないから、手荒なことをするわけではない。ただの用心である。
「琴音さん?」
 びくんと身体を震わせた琴音が携帯電話を落とす。
「怪しい者じゃないから。式王子港警察の者ですよ。君のご両親が心配されて届出を出されたんだ」古賀が困った表情を浮かべ襟元をぽりぽりと掻く。優男風の古賀が声をかけてこんな調子では、川瀬が声をかけていては確実に不審者扱いされていただろう。古賀が琴音の携帯電話を拾い、何気に画面に眼を向けた。

 名前:ルナティック [sage]  ID:???
 こんにちは。「月に吼ゆるもの」の召喚祭りについて。
 祭りはキングスポートで行いましょう。港の近くにマンション建設予定地があります。 月齢十五・三の日が最も相応しいと思われます。
 期日までにそれぞれ貢物を用意してくださいね。部位は問いません(笑)
 それではハイヨル☆コントン
 
 古賀がカーソルを下げる。その後には、賛同者の名前が連なっていた。
 空鬼、クラネス、星の精、エイボン、ギルマン、土星猫、カーウィン……。
「川瀬さん、これって」
 古賀の言葉よりも先に、険しい表情で川瀬が琴音の右手首を掴み、ベンチに置いてあるトートバッグを睨みつけている。月光が凹凸の影を浮かばせるそれは、何か湿り気を帯びて赤黒く染まっていた。川瀬が顎でしゃくる。
「琴音さん開けるよ。いいね」
 トートバッグの中には赤い液体の詰まった二リットル入りペットボトルが一本入っていた。キャップを開けて確認するまでもない。血液である。それも出所不明の。古賀は息を飲んだが、ゆっくりと吐き出した。「川瀬さん、血液です」
「キングスポートって言うのはもしかして、式王子港市の略称じゃないのか。比良野」
 古賀に頷いた川瀬の声が低く、問い詰め口調となっている。
「そういえば今夜は満月。こんな晩は月見でもするのか。どうだ、比良野」
 琴音は俯いたまま口唇を固く結んでいる。
「質問を変えよう。この血液はどうした、比良野」
 どんどん川瀬の声が低くトーンを落とす。乱暴な口調ではない分、川瀬が義憤を発しているのを古賀は良く知っていた。
 月光が琴音を青く照らす。月は狂気を呼ぶ、古賀はそう聞いたことがあった。
 唐突に琴音が顔を上げた。両眼に地球の衛星の姿が映える。口唇が奇妙に歪んだ。理知的で端正な面影はそこにはもはやなく形骸と化していた。自由な左手を天に突き刺す。
「……祝祭よ」
「何だと」
「祝祭よ! 月夜も闇夜も私の棲家。祝祭だ。快哉を叫ぼう」
 とめどなく、嗤い叫ぶ琴音の双眸に、妖しげな色が浮かびあがる。
 祝祭だ。私は眷属。昼の陽光はマヤカシに過ぎない。私は眷属。這い寄る混沌。不定形に漣をたたせフルートを奏でる。祝祭だ。月に吼ゆるもの。月光を浴びるもの。私は召喚する。ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの。いあいあないあるらとほてっぷ!
 「古賀、この娘を署に連れて行け。俺はマンション建設予定地に行く」
 正気を失い、ひたすら叫び声を上げ続ける琴音を古賀に委ね、川瀬は駆け出した。
 
 影が躍る。
 陽の落ちた作業現場に人の気配などするはずが無かった。本来であれば。
 港から吹きつける潮風の生臭い魚の腐ったかのような腐敗臭に混じり、殺人や事故現場で嗅ぎ慣れたことのある不快な臭いが川瀬の鼻腔を刺す。
 鉄骨がまだ完全には組み立てられていない棟の中心に、彼らはいた。
 八人の男女が円を描くように立ち、更にその周りを夥しい数の猫が群がっている。観察してみれば、幼さ、あどけなさを残した十代から二十代の一見何処にでもいそうな若者たちだった。月光に浮かび上がる相貌はどれも白痴めいた熱情に駆られている。
 空鬼、クラネス、星の精、エイボン、ギルマン、カーウィン、アーミティッジ、土星猫。彼らがギルメンとやらなのか。彼らの環の中心には窪みがあり、並々とした何かが湛えられていた。
 月光に揺らめくそれは赤く照り映えたゆたう。
 湿気でもない、じんわりと魂魄から冷えるような名状しがたい気配が立ち込め、川瀬は飛び出す機会を逸した。地獄めいた血の池に若者たちが手に持つタッパーから何かを取り出し、次々と放り込んでいく。あれは、細くうねったチューブのような桃色の……川瀬は隣の県で大腸と小腸が欠損した遺体が先日発見されたことを思い出していた。
 削ぎ取られた耳や視神経が繋がったままの眼球、大腿部、歯の剥き出した下顎。
 無数の人体を司る部位が、切り取られ、抉り取られ、噛み千切られ、毟り取られ、捻じ切られ、元の形を思い出せぬ冒涜的な有様で血溜まりに沈んでは浮かび上がる。
 若者がペットボトルから其処に注ぎ込んだ。血液か、尿か、脳汁か。
 呪縛されたかのように川瀬はまるで動けなかった。長年の刑事生活でこんな場面に出くわすことなど一度たりとて無かったのだ。
「祝祭だ」一人が声を上げる。おぞましき儀式の司祭めく無貌の仮面をかぶった、十二、三歳だろうか。八人の中で最も若いと思われる少年とも少女とも判別のつかない、仮面でくぐもった声が口火を切ったと同時に皆が快哉を上げ始める。
「祝祭だ」猫たちが唱和する。空気が胎動する。地球外とでもしか表現仕様の無い在りえざる気配がざわりと場に降臨する。下卑た太鼓を打ち鳴らすかの振動が足元を這う。
「強壮なる使者にして這い寄る混沌よ、我らは汝を召喚するものなり」
「祝祭だ。月に吼ゆるもの。月光を浴びるもの、我らは汝を召喚するものなり」
「いあ、しゅぶ=にぐらす。我らは千匹の仔を孕みし森の黒山羊の名を呼ぶ」
「いあ、ないあるらとほてっぷ。盲目にして無貌なるものよ」
「祝祭だ」
「祝祭だ」
 不意に川瀬は気付いた。血溜まりに誰か横たわり蠢いている。おぞましく血腥いが目の前で行われているのは馬鹿馬鹿しいカルト結社的な儀式に過ぎない。生きた人間が囚われているなら、救い出さねば。応援を頼む間など無い。
「お前たちそこで何を、して……」
 天空に擁く月光の雫を滴らせそれはゆらりと立ち上がった。夜闇を凝縮したよりもなお昏い暗黒を、地下神の住まいし冥界の彫刻家が夜毎観る冒涜的な悪夢を彫り込んで擬人化したかのような黒い肉体を月明かりが透過する。その双眸からは在りえざる角度を持つ無窮な外宇宙の果て無い星々の瞬く光が溢れ出し。
 無貌の如き面妖に裂け目が一筋走り、赤赤としたものが覗く。
 それは夜を劈き月を飲み込まんとする慄然たる咆哮を轟かせた。





  

物書き交流同盟悪の結社祭りへの投稿作品


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コメント

お久しぶりです。
感想のお約束をしていたのになかなか動けず申し訳ないなぁと思いつつ2ヶ月、ようやく読ませていただくことができました。

甲斐さんの「執筆していた時の今」が詰め込まれた作品だなというのが第一印象という感じでしょうか。
物語はホラーなのに、何故か読んでいてにやりと笑いたい気分になってしまいました。

そうした個人的な要素を取り除いた感想を少しだけ。
川瀬さんが格好良いなぁと。
無骨な感じが、素敵でした。
このエンディングから生き残れたとしても、すでにこれまでの川瀬さん通りではいれなそうですが、読んでみたい気もします。
また、全編を通してある血の滑りを感じさせるような表現が独特だなぁと思いました。
それでは、簡単ですが、この辺で。
また暇になりましたら出没させていただきますw

投稿: 才源 | 2006.11.27 07:07

小倉蛇さん、読んでくださりありがとうございます!

そうですね。小技はこれまでちょこちょこ使っていたのですが、本格的な神話小説となると、これが初になります(書きかけで放置もありますけど;)

途中の詩>
比良野琴音の独白ですね。ああ、効果的に仕えていたら良いんだけれど。

人体の各パーツ>
生贄の対象がたまた各部位であっただけで、フランケンシュタインの怪物、のようなものが産まれるって風には想定していません。
美少年、はたまた美少女?
月に吠ゆるものは、ないあるらとほてぷの顕現ですから、下手な描写は怖くて出来ません(笑)

口説きバトン>
すいません。返しにくいバトンばかり渡してしまって_| ̄|○

投稿: 甲斐ミサキ(to小倉蛇さん) | 2006.10.12 23:09

仮野宿さんへ、
まずは、熱烈な感想ありがとうございます。
ラヴクラフトが知人に出したという書簡はこういったものだったのかな、と少し妄想してしまったくらい、嬉しい内容の感想でした。

驟雨>
出だしを褒めてくださりありがとうございます。短編書きにとって、読んでもらえるか否かの分岐点が冒頭の一語であるのはまぎれもない事実であるし、であるとするなら、今回の冒頭は成功だったのだろう、そう思いたいです。

漢字>
難しかったですか……。意図して難しい漢字を用いて読者さんを困らせようとか、権威付けとかそんなんじゃまったくないのです。
甲斐が普段から慣れ親しんでいるラヴクラフト小説の訳文に難解な漢字が含まれていて、恐らく、思い切り影響下に置かれてしまっているのだ、そう分析してみまし。

冒頭>
確かに思案したので、出だしを計算したと受け取ってくださるのは光栄のことです。
悪の結社というよりも、恐怖小説になってしまいました……嗜好性の問題なんでしょうね。

ではでは、最後まで読んでくださりありがとう御座いました

投稿: 甲斐ミサキ(to仮野宿さん) | 2006.10.12 23:04

読みました。
いよいよ本格的な神話作品ですね。
途中で詩のような文章が入ってくるところなど、いい感じの雰囲気になっていると思いました。
血に池に投げ込まれたのが人体の各パーツであることを考えると、そこから現れるものは、どんな姿だろうと想像が膨らみます。

……あと、「口説きバトン」はパスさせてもらいました。

投稿: 小倉蛇 | 2006.10.10 22:18

 突然すいません。仮野宿です。同盟のほうの掲示板に書き込もうとしたのですが、文字数が超過してしまいました。いくらか削ったのを投稿しといたのですが、やっぱし言い足りないの気がするので、勝手にですが完全バージョンを読んでもらいたくやってきました。以下それ。

 以下の文中で甲斐ミサキ氏作『月光の雫滴る』の内容について、結構たくさん触れてしまうだろうと思う。なわけでまだ読んでない方は読まんほうがよかろうと思うのですが、まあそこらへんは各自判断したってください。前文終わり。

 僕はとても興奮している。胸の鼓動が高らかに鳴り響いている。何故だろう? 終盤中盤、いずれも謎を底に潜ませて静かに恐怖は織り成される、まさに圧倒的展開といえる。すばらしいの一言につきる。これなら確かに物語へと没入してしまうはずだ。
 だがさらにさかのぼって考えたとき僕はそれ以上の驚きを覚えてしまった。冒頭――空行前の第一段落、その時点ですでに僕はもう物語のなかへと取りこまれてしまっていたのだ! 
 驟雨。この非常にシンプルにすぎる書き出しからすべては始まりを告げる。たった二文字の熟語なのに、そこには暗さ冷たさ、先への見通しが効かない状況、そんなものが広く含まれる。普段使わない言葉だけに新鮮でそして古ぼけて不気味なイメージが、脳内では展開される。
 其れ、所為、夥しい、晒され、冴え冴え、撥ね、環、見慣れない漢字の羅列にひるむ。集中的に配置されそれらに気圧され、それともそれらによって指し示されるイメージに蝕まれ、なにを語っているのか把握しようとするより先に、力強い言葉の波に襲われる。
 それでもどこか僕はその時点ではまだ冷静に物語を眺めることができていた。それはなぜかといえば物語の非現実的雰囲気、それが僕と物語との間の距離をとっていてくれたはずだったのだ。けれど『なぁーお』、実に単純な擬音によって物語はわかりやすい現実感を伴い、一気に僕のほうへと迫ってきた!
 もしかすると本編冒頭より多く語ってしまったのかもしれない。それは仕方のないことではある。『月光の雫滴る』第一段落はこれは反則だろってぐらい強烈に描かれているくせに、実際の文字数は奇妙に抑えられているのである。それはまるで一個の魔術を仕掛けられてるんじゃないかとさえ思えてくる。
 変な勘ぐりはしてもらいたくないからいうけど、中盤終盤にかけてが悪かったというのではない。ただあの第一段落は計算されつくされ、あまりにも精緻に構成されているのである。それだけでもう読者の魂を勝ち取り、あとはもう好き勝手に物語のなかをひきずりまわす状態に持ち込んでしまうほどに、だ。
 まったくもって恐ろしい作品でした。なんかわかりにくいというかなんというか、とにかくまあすいません。なんかすいません。感想を書くのはどうも難しいと思う。まあ大目に見てやってください。仮野宿でした。

 以上です。馬鹿みたいに長くて本当にすみません……。

投稿: 仮野宿 | 2006.10.05 22:12

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