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2006.07.26

『キタブ・アル・アジフ』についての私見

クトゥルー関係の掲示板を覗いていてふと思うことがあり、
「ネクロノミコン」といえば、20世紀最大の怪奇小説家ラヴクラフトの産み出した輝かしい功績の1つで、最も有名であろう魔道書なんだけど、
最近、「キタブ・アル・アジフ(Kitab Al Azif)」と呼称されることが気になっている件について。
そもそも、ラヴクラフトが産み出したのは、アラブのの狂える詩人アブドゥル・アルハザードが著したとされる「アル・アジフ」という「ネクロノミコン」のアラビア語表記であって、
「キタブ」という単語は備わっていません。
クトゥルー神話は「ラヴクラフトサークル」と呼ばれる作家たちの輪によって相乗的に築かれたものなので、何処かに出典があり、それを知った人たちが「アル・アジフ」の正式名称として使用し始めたのかと思っていましたが、
甲斐の所持している[ラヴクラフト全集]及び[クトゥルー神話事典]、[暗黒神話体系「クトゥルー」]に当たってもその記載はなく、またWEB上を探しても出典らしきものは見当たらず、ただ、「キタブ・アル・アジフ」という言葉のみが独り歩きしてる気がして腑に落ちなくって……。
出典らしき面影があったのは、日本ファルコムさんが発売していたPCゲームSORCERIANの中での記述。氷の洞窟というシナリオの中に言及を見かけたのだけど、それも引用らしく沈没……。
そこで海外にまで検索範囲を拡げてみると、さすが本家。情報が見つかりました。
The Dan Clore:Necronomicon Page
↑サイト内のThe Names Necronomicon and Al Azifから引用。

A variant form, Kitab al-Azif, was never used by Lovecraft and seems to have first appeared in the seventies. The word kitab simply means "book" in Arabic, and appears in many titles in that language. Those who have added it have probably had in mind, however, a specific work. This is the Kitab-al-Uhud, or Book of Power, by Abdul-Kadir, and identified with a book supposedly dictated to Solomon by the demon Asmodeus. Only one copy of this work is known to exist; that copy was tracked down by the Sufi expert Idries Shah, who tells of his search for it in Oriental Magic (1956). This text is mentioned in both the Simon Necronomicon and the Hay-Wilson-Turner-Langford Necronomicon.

機械翻訳及び甲斐の拙い英語力で訳してみた(微妙に通じてなさげだけど……)。
異なる形式「Kitab al-Azif」はラヴクラフトによって使用されず、70年代に最初に現われたように見える。単語「kitab」は、単にアラビア語の「本」を意味し、その言語で多くのタイトルに現われると、それをつけ加えた人々は恐らく心に留めておいた、しかしながら特定の仕事を。これは「Abdul-Kadir」によって、「Kitab-al-Uhud」、あるいは力の本であり、悪魔アスモデウスによってソロモンに恐らく口述された本と一体視しました。これは写本が一部だけ存在すると知られている。その写本は、スーフィー派(訳注:イスラム神秘主義のスーフィー派のことか)のエキスパートの「Idries Shah」(彼は、「Oriental Magic」(1956)中で探索について言及している)によって探し出された。そのテキストは、Simon NecronomiconおよびHay-Wilson-Turner-Langford Necronomiconの両方の中で言及されている。

Simon Necronomiconとはマーク矢崎の『ネクロノミコン秘呪法』のネタ本のことらしい。アマゾンの解説によると、
ユダヤの秘密結社フリーメイソンがひた隠しにした秘中の魔術書『ネクロノミコン』。この書には裏と表があり、恐るべき終末の陰謀が隠されていた。裏と表二つのネクロノミコンの意味するものは終末と救世。そのうち、救世を説く表ネクロが断章になっていたのは何故か?大胆な切り口でその謎に挑んだ著者の表ネクロ初公開の書。あらゆる願望達成の書であると同時に、終末からの回避を説く今世紀最大最期の禁書でもある。ノストラダムスの予言詩と一致する1999年の終末から逃がれられるのは、はたして、限られた人たちしかいないのか?(ショッキング!!!!)
どうみてもトンデモです。ありがとうございました……orz

Hay-Wilson-Turner-Langford Necronomiconの方は、いわずもがな、ジョージ・ヘイ、コリン・ウィルソン、デイヴィッド・ラングフォード、ロバート・ ターナーらが、英国の魔術師ジョン・ディー博士が遺した謎の暗号文書が実はコンピュータ解析によって明かされたその正体が、なんと伝説の魔道書だった……と壮大なでっち上げを見せてくれた『魔道書ネクロノミコン』のこと(あれ? この本持ってるけど「キタブ」って単語見たことない)。

「キタブ」は、どうみても『ネクロノミコン』の便乗商品である偽物と、壮大な釣りである偽典の2冊においてのみ言及されているよう。とはいえ、欧米のクトゥルーを題材にしたカードゲームには「Kitab Al Azif」のカードがあるのを確認したしそれなりに市民権を獲得している言葉なのかなぁ。
ラヴクラフトが用いなかったからと言って、「キタブ(キターブ)」を書名の前に付けるのはアラビア語の文法として正しいものであるし、上記の2冊をラヴクラフトサークルにいれるのは間違いだ! なんてわざわざ声高に叫ぶこともないですが、「キタブ」は「アル・アジフ」の格付けにナイ神父辺りが持ち出してきたものなのかなぁって個人的には思うことにして、「ネクロノミコン」の原題や、原典が「キタブ・アル・アジフ」ではなく、甲斐は「アル・アジフ」を正式名称と考えていきたいと思います(個人の自由なんだけどねー)。
……でも、やっぱりH.P.Lが創造したのは飽くまで「アル・アジフ」であって、WEB上で見かける『ラヴクラフトが作り出した魔導書ネクロノミコンの原本キタブ・アル・アジフ~』っていうのは間違った知識なんだーとWEB世界の片隅で叫んじゃいたい。

追記:
どなたか日本で普及するきっかけとなった「キタブ・アル・アジフ」の出典についてご存知の方は、是非ともコメントくださるようお願い申し上げます<(_ _)>

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コメント

 初めまして。興味深く読ませていただきました。以下、ちょっとだけ補足をば。
 いわゆるシモン版『ネクロノミコン』はアレイスター・クロウリー生誕100周年を記念して発行された皮装丁の限定本です。当初はシリアル入りの限定部数販売で、日本のYahoo!オークションで出品されたこともありました。現在はペーパーバックで普通に入手可能でありがたくも何ともありませんが、『ネクロノミコン秘呪法』ともまた内容が大きく食い違っているので、「ネタ本」という表現は適切ですね。

投稿: Molice | 2007.03.13 06:38

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