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2003.12.16

短編小説:贈り物製造機

  おっと顔は見ないでくれよ。まぁ見られたからといって困るツラじゃないがね。しかしお前さんもよくオレ様の居場所が分かったもんだ。なに! そうか……あのバーサマかい。喋りな奴だよ。一遍絞めとかなきゃね。いやいや、別に殺しゃしないよ。お灸をちっとばかし据えるだけさ。
 まだ11月だって云いたいんだろう。分かってるよ。お前も記者なら知ってるだろう。年末は通り魔事件が多いってな。それも全国的にだ。そりゃそうだろう。一箇所でばかりコトを起こしゃ不味いし、第一不公平だしな。オレ様は何事も平等に振舞うのが好きなのさ。それにいなくなっても誰もが困らない連中ばかりだろ?大体、お前さんが気にするこっちゃないよ。
 エッ、髭が無い?ふん、あんなもの一年中生やしてちゃ顔が腐っちまうからな。全く噂ばかりが一人歩きしてるな。あれは商売道具なのさ。ま、いい。少し黙って見てな。
 路地から出てきた男がいるだろう。そう、あの太った男だ。なになにお前さん知ってるのかい。ほう……その通りだ。駅前でホットドッグ売ってるしけた野郎だよ。……何だって?アハハハ、お前さん、あいつからホットドッグ買ったことがあるのかい。そいつは傑作だよ。幾ら不況とはいえウィンナーの材料聞いたら眼ん玉飛び出るぜ。でも味は好い?それはそれは……。 
 こいつを見てくれ、仕事は上々さ。この切断部、奇麗な仕上がりだろ? 幾ら暗がりとはいえ全く張り合いがないことだよ。ま、サディストって人種は残虐であればあるほど、他人の痛みには鈍感であっても自分に降りかかる痛みに対しては酷く敏感に出来てるからな。痛みがわかる人間に職業柄とはいえ生き物をさば捌く事など出来ぬものさ。ましてや、奴の獲物と言ったら……クククッ。
 それにしても大の大人が裏声で泣きながら懇願するなっての。たかだか右手の肘から先をナイフでもぎ取ったぐらいで。……何だ、その顔は……。なに?オレ様の方がよっぽどサディストだって? たしかにオレ様の、普段解体に従事している立場の人間を解体するのも考えてみれば倒錯的ではあるけれども。残念、こいつは趣味じゃない。列記とした仕事だ。
……ハハハハ、なんだお前、まだ気づいてなかったのか? 奴が売ってた、そしてお前が喜んで頬張っていたホットドッグのウィンナーの正体は…。なに? 云わずとも分る? まぁ聞きたまえよ。想像は当たっているだろうがね。
 そうとも、人の肉だ。それも幼い乳飲み子の肉だよ。おや? お前さん、人肉と聞いて顔をしかめたが、それはどうか……古来、人の肉とは美味たるものとして珍重されてきた。中国の或る名高い店では高官や一部の好事家達に今でも供されているという。ま、余談だが……。
 奴の本職知ってるか? そう、肉屋だ。人一人解体するくらい朝飯前さ。奴はガキを殺さなきゃ満足に自分の欲望を昇華出来ないときたもんだ。かといってそのままにしておけばいずれ足がつく。そこで思いついたのが腸詰だ。骨髄液と血液と肉、塩胡椒に各種スパイス。隠し味に脳味噌をひとさじ。
 これでぐっと味が引き立つ。それを腸に詰めてな、もちろん雑じりっけなし百パーセント人の腸さ。
 臭みはないのかだって? ハハハ、なに云ってるんだ。どんな動物でも一番美味いところは内臓、その次は骨の周りの肉だと相場は決まってるだろう。そいつを売ったのさ、肉屋がウィンナー売るんだ。誰も怪しむまい。ところがだ……。
 ここに一つの挿話がある。あるところに、旦那は蒸発して職もなく明日どころか今日の糧も無い……そんな女がいた。自分にあるのは生まれて間もない乳飲み子だけだ。その子にあげる母乳も出ない有様。さて……、
 そんな女の家の近所には或る肉屋があった。どこで仕入れてきたのか、考えもつかないような安い値で肉を分けてくれる店がだ。が、最近は品薄なのか、棚に並ぶのは少なくなってきてる、その上、店の主人も不在がちだ。
 或る日、女は肉屋の主人が駅前でホットドッグを売っているのを見かけた。そのホットドッグも信じられないくらい格安で売られてい、また味もいい。
 ところで女は肉屋における一つの法則性を見つけてしまった。それは、
『行方不明者が出た翌日には必ずホットドッグが売られる』ってことだ。女のカンって奴か。そこで女は思っていたことを実行したんだよ。
『ああ、もう私にはこの子を育てるお金も気力も無い。可哀想だけど、どこかに置き去りにしよう』
 女は肉屋の裏路地に子供を置き去りにした。
 そしてもちろん翌日、格安でイケる味のホットドッグを喰うために駅前に立ってた……。
 クックック、まさに欲望の糧だな。なに?そんなことが許されるはずが無い? もちろん、こいつは挿話だ、お話だ。誰も本当の事と断って語ったわけじゃない。そしてオレ様は嘘とも云ってない。ただ、この話を通して理想が大好きなロマンチストのお前さんに二つの教訓を知ってもらいたかったのだ。
 一つは、確かに慣行化されたカニバリズムの存在を証明することは難しい。ただ、
「貧しい者と同じように、食人者も常に社会に存在する」ってことだ。さらに、飢えからくる欲望の純化と深化。最初は肉が喰いたいと思ってるだけかもしれない。それが飢餓からくる切迫感に精神を追いやられると隠れていた本当の欲望が顔を出すということに。
 そしてもう一つは他人に処理させることで罪の意識から逃れようとした、この女の欺瞞と怠慢だ。
 そんなに生きる糧が欲しければ働けばいいのだ。これだけ無国籍、無秩序な掃き溜めのような街だ。
 働き口がないとは弱者の戯言に過ぎんよ。職を選り好みしさえしなければ幾らだってあるだろうに。
 まぁ、それがどんな仕事であるかまでは責任取れぬがね。
 子供が手の煩いになるのなら他に遣りようがある。子供が欲しい連中や慈善活動家なんて胡散臭い奴らはこの街にゴマンといる。それを女は肉屋の路地裏に子を置くことで全てが解決したと思っているのだ。そして『子を殺したのはあのブッチャーだ。私じゃない』とは幾らなんでも身勝手とは思わないかね?
……おっと、話が重くなってしまったな。オレ様らしくもない。なに? 何だって? その女はどうしたかって? フフン、心配するな。この【悪魔の爪】様に手抜かりはない。すでに女はお蔵入りしている。
……なんだ? 質問の多いやつだな、悪魔というなら何故オレ様は黒い服じゃなく朱色のコートを着ているのかだって?何度も云うようにこれは仕事着なんだよ。昔からこう決められてんだ。それに【悪魔】ってのは仕事上の符丁だ。
 おっとぉ、お喋りはこれまで、お前さん首をひん曲げて空を見上げてみな。相棒のご到着だ。
……なんだ、レィンディアーがそり橇引っ張ってくるとでも思っていたのかい? そいつは残念なことしたが。ただ、お前さんのいう通りに今はまだ11月だからな。……おう持って来たか、ゼロよ、どうれ見せてみろ。
 このふわふわした犬っころの幽霊みたいなのは【夢喰い】というんだ。こいつの腹ん中には人々の夢の欠片が詰まってる。そいつをばらして内容を読み取り、可能なら叶えてやる。お前さんも知っての通り、それがオレ様が司る本来の仕事だ。おいゼロ! 早速吐き出しな。むぅー、やけに消化の悪いものを採ってきやがったな。すまんがお前さん、奴の腹を二三度蹴り上げてくれんか? ……おっと出てきた。
 どれどれ、これがそうだよ。……夢のかけらっていうくらいだからキラキラしてるもんだと思ってた? なに、お前さんの言うとおりそんな夢だってかつてはあったさ。混じりけなしの欠片がな。ただ、昨今のはやりとは云わんが最近はこういう黒くよど澱んだ欠片が多くなってきたのは確か……。
 割ってみようか。お前さんにだって分るよ。よく耳を澄ませてみろ。こいつは……10代の、今時の女の子だな。
 どれ。
『何でも買ってくれるパパが欲しいー!!』
……あ、いや一瞬意識が遠くなった。ま、いい。他人の欲望と自らの欲望とを秤にかけ、そこから生まれるものなど価値あるか。それを見出すかは本人次第なのだがね。これも欲望の一顕現。夢やドリームなんぞと糖衣に包まれるうち中は聞こえはいいが、所詮は自らの根本に潜むエゴイスティック、極めて利己的な欲望のことだからな。
 気を取り直して次は、これはご老人だな。どれ……。
『まだ死にたくない!』
……このご老人は長寿番付の上位に名を連ねる者でな、曾孫の顔も見たし世間的地位と名誉も得ている、金だってある。誰しもが羨む人生だ。例えそれが他人を蹴落としてその上に築き上げられた人生の城ではあっても……。彼は現在入院中だがそれは不知の病とかではなく、只の老衰だ。いずれ誰しもが辿る道だ。だのにまだこの期に及んで不死を願うか。人の欲望とは尽きせぬものということよ。
 夢とは子供だけの特権ではないのだが、あまりにも可愛げがなさすぎるな。どれ……。
 夫の死を願う妻に管理主義社会内にはびこ蔓延る賂の嵐。受験戦争において余所の子のミステイクを祈る子達……。全くアイデンティティってものがないのかね、あ奴らには。
ゼロ……もうちょっとましな夢は無かったのかい? ――いや、誰しもがこう願っているのか……。昔のようにただ純粋に物質的なものを求める者は数少なくなったよ。確かに世紀末。この惑星は精神的に滅びにへと向かっているのかも知れん。人の言う千年紀は程遠い。
 お前さんはどうやってオレ様が夢を叶えてやるのか知ってるか。徒手空拳で何も無いところからマジシャンのシルクハットみたく、ひょいと何でも取り出すってわけにはいかない。それなりに代償を払ってもらうのさ。そうだな…そのツケはこの星に還ってくる。
 誰彼と全ての夢を叶えていたんじゃきりが無い。そこでだ、たっぷり欲望の染み込んだ介在物を利用することによって或る夢を別の夢へと昇華させるんだ。仲立ちによるいわば物質的欲望の転化、純化だ。それをこなしてくれるモノ、それがこいつらさね。ま、見てな。
――そうだな、まず介在物はとびっきり病んだ持ち主のモノがいい。欲望への理解が大きく飲み込みやすい。下世話だが早い話、燃費がいいってことだ。
――血を流すことで分裂した国の統一を図るエセ為政者。
――特定の宗派に関係なくとも『神を信じる』と主張し無心論者に不可解な思いを与える者たち……ククク、まさにクリスマスがそうだな。
――人肉を捌く肉屋に、そこに子を譲り渡して自らの子を喰う母親……。
 腕に口。眼球と臓器一揃いに骸骨。その他諸々、ここに揃っているのは『禁忌』をものともしない強者達のそれぞれが有していた身体の一部だ。おい、そんなに気持ち悪がるな。こいつは肉体の欠損部分なんかじゃない。既にアミノ酸やタンパク質、カルシウムやリンで合成され、客体化されたモノでしかない。それを融合させて、と。ゼロよ、早く口を開けんか! ……よしよし。
 ホラ、分るか? ゼロの胎内に放り込まれた、欲望を飢える器官が蠢き溶け合って一つの形を成していく。
 だんだん姿が整ってきたな。――なに? スロットマシーンに似てるって? ううむ、なかなか良い例えであるよ。欲望と云う名のコインをあても無く注ぎこみ、叶うか分らない夢を引き当てようとする……。
――どうやら完成したようだ。どうだ、外見上はいずれかのヒトの形を保ってはいるが、どこか幾何学的。内面は全く違う。それに鈍く真珠色に耀いているだろう?
 ま、簡単に説明だけしておこう。気を持たせるようだが……。
 夢の欠片を用い<変換>を行うわけだが、新しい夢へのかまえ、もしくは世界に対する態度が<欲望-図化>構造に歪曲を与え、<変換>を促すのさ。この時、既成の構造の中心は同じレヴェルで移動するか、高い、もしくは低いレヴェルへと移動し新しい形成が成される。
 同じレヴェルでの構造の変換を<構造変換>と呼び、違うレヴェルへの変換を<位層変換>と呼ぶ。ま、欲望としての<正か負か>という方向性も加わるから一概にどうこう言えんのが現状だがね……。講釈はこれまでにしてと、
 ではお前さんに見せてやろうさね。【サタンリィー・クロウズ】もとい聖ニコラウスの力を。
――この突き出た口は祖国に流血をと叫んだ為政者のものだな。それはともかくとして、この中に夢の欠片を放り込む。そしてこのレバーのようになってる、先ほどの肘を下げる……。
……お、独裁者め、苦しそうな顔して吐き出したそうな顔してるな。スマンがさっきしたみたいに蹴飛ばしてやってくれんか。うむ、そうだ。
 ほら飛び出てきた。クククッどうだね。かのご老人の『まだ死にたくない!』って叫んでいた夢の欠片は、この『ピノッキオ』という絵本一冊分の価値しかなかったというわけさね。この現象が<欲望の純化>だ。……まだだ、眼をそらしちゃいかん。独裁者の口から何かが立ち上っていくのが分るだろ。
 あれこそ欲望の不純物、<夢の残滓>さ。排気ガスやフロンガスとは決定的に違うのは、あの黒い煙は空を濁し、大地に染み込んでは樹木の根を腐らせる。それこそ星の命自体を削るのさね。
 ヒトが幾らどんな夢を持ったっていいさ。そしてそれを叶えていくのがオレ様の仕事。それが結果としてこの星の生命を絶やすことになったとしてオレ様にどんな罪がある? そして誰が責めることが出来ようか……。……ふむ、お前さんは何をオレ様に謝ることがある? オレ様はこの星がどうなろうと構わんのだ。ヒトではないからな。死ぬことなど有りえない。それにお前さんに自業自得とは云わんよ。善くもあれば悪く、何事も結果が全て。気の毒ではあるがね。ハハハハハ。
――なに? ゼロよ。まだ、腹が重いのか……。一体どこで何を仕込んできたのやら。スマンな、こうなったら付き合いだと思ってもう一遍蹴飛ばしてやってくれ。
――ほお! フフフフ、これはこれは。月光を磨き上げたるような結晶だな。まだこんな欠片をお目にかかることが出来ようとは…。どんな人間だ一体?
 ふうむ、身体を患っている…少女か。それも肺と気管支を冒されてもう永くはない。
 とりあえず割ってみようか、どれ?
『……お星様がいつでも見られる空が欲しい』
 そうだな。お前さんも知っての通り、それどころか、この子の場合、生まれたとき既にこのかつての蒼い惑星は病んでいたのだよ。スモッグで覆われた空。鳥も飛ばぬ空。星の光さえままならぬ空……。
 この子は自分の身体の回復を願ってもいいのにそうしなかった。どうだ? こんな夢は自己犠牲だと思うか? 欲望でさえない、ただの小さな祈りだ。誰に届くとも知れない……。
――なんだゼロ、分かってるよ。そんなに赤い鼻を擦り付けるな。この子の願いを叶えてやろうじゃないか。さすがにクリスマスには間に合わないかもしれんがね。この世界は澱みがいささか深すぎる。だがせめて美しい空で千年紀に彩りを添えてやろうじゃないか。
 ほら、お前さんも手伝わないかい!その腹がパンクするまで製造機にどんどん夢を詰め込んじゃいな。
 こんな子がいる限りまだまだオレ様の力は衰えちゃいけないんだよ。疲れたんでお前さんをこの星の後継者に据えようとも思ったんだが先になりそうだ。さあ!頑張れ。一世一代の大仕事だ。
 それこそ、
――『靴下に入りきらない夢』を!!


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コメント

感想有難うございますm(__)m
嬉しくて、励みになります。
甲斐的にはこの季節、『キラースノーマン(96/米)』が観たくなりますね。B級嗜好丸出し(笑)

サタンクロウズは『ナイトメア・ビフォア・クリスマス』で、
お化けたちがスペルを聞き違えて妄想しまくってた名が由来。
ゼロもジャックの愛幽霊犬から。オマージュです。

年末って通り魔事件的ニュースを聞くことが多く、それって何か原因があるんじゃないか、と煮詰めていった次第。

リクエストもちろん構いません!
当面は手持ちをUPしていくと思いますが。
ぜひお待ちしております。
……書けるかなぁ(ドキドキ)

投稿: 甲斐ミサキ | 2003.12.20 01:07

こんばんは。
ようやく読めましたよ。

怪奇に惹かれてこちら読みました。
『サンタクローズ』たしか映画とかありましたよね?
いい子の所には、サンタクロース。
悪い子の所には、サンタクローズ。
だったような記憶が…。

オチがいろんな意味に取れて
面白いと思います。
読み手の心理次第、って感じも。

感想書くの、ヘタクソでごめんなさい
( ̄▽ ̄;)ゞ

あっ!リクエストもありなんでしょうか?

投稿: | 2003.12.20 00:49

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受信: 2004.12.21 21:09

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