【二次】タコヤキ=ボール アット ザ アンダーグラウンド【ニンスレ】
ツィッターで絶賛公開されている、サイバーパンクニンジャ小説「ニンジャスレイヤー」の二次創作小説です。
重金属酸性雨が降注ぎ、健康を害した月はどす黒く穴ぼこめいた姿をかれこれ十日以上見せてはいない。ここはネオサイタマ。
ケブラー繊維のノーレンが汚染された雨を吸い、LEDボンボリの下で力なく垂れ下がっている。
ムコウミズストリートの中でパンクスやジョックも近寄らない、イマドキから外れた時代錯誤の店、それがクトニアオオキイだった。
ここはスシ・バーか? 違う。
ならばドンブリ屋か? 違う。
トウフデリバリーか? 違う。
焼き目のついた丸いボールが綺麗なマスマティクスとなって灼熱した鉄板の上で転がされている。海産物のコウバシイ香り!!
イニシエ、平安の世から伝わる日本のデント的ファストフード、ベストオブコナモノ、それがタコヤキ=ボールである。
「ヘイヘイホ、ヘイヘイホ」
軒下の店主が目にも留まらぬテクニックでピックを使いタコヤキ=ボールをひっくり返す。
ヘッドマウントディスプレイに流れるオイラン天気予報を眺めながら篭手返し。
「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。「ソイヤ」回転。
サイバネ義手でもないのにこれだけのことを出来る者は多くない。ワザマエ!!
タコヤキ=ボール。
キョウト・リパブリックより伝わったもので、コムギコ粉末の中にトウフ、ベニショウガを練りこみ、その生地に、バイオタコの切り身が投入されている。ボール状に焼きあがるそれは、麻薬性はないが、そのトリコになった者は数知れぬ。ただ、ネオサイタマの地にはそれほど根付いていない。モッタイナイ!
「ドーモ。テンシュ=サン、ハジメマシテ。タコヤキを寄越せ」
店主が手を止めずに眼球だけを動かす。軒先にいかにも、というヤクザモノが二人立っている。
双方とも同じ顔で同じように流れるような動作でタンを吐いた。
その後ろでサイバーサングラスに黒のスーツを着潰した男が煙草をしがんでいる。
「ドーモ。エーラッシェー」高速でバンブーフネにタコヤキ=ボールが盛られていく。
六個入りで三百円。スシ・バーでスシを三皿食べられることを考えるとそれなりに高い。
それを三フネ。
「ザッケンナーラー!! ドクサレタコが!!」
湯気を上げるフネを受け取りざま、地面に叩きつけてからヤクザがまたタンを吐いた。
「ンナオラ。何度も言わせんなコラ」
「私のボス、モットスゴイ希望している。アー、この土地全部、ジアゲしちゃってマルモウケ」
店主にとってはチャメシ・インシデントだった。ヤクザやヨタモノに因縁を付けられていちいちメクジラを立てていては一国一城のアルジはつとまらない。
「なぁ、テンシュ=サン。ここだけ歯抜けになってるんだ。分かるだろ、この土地だけだ」
ジアゲ屋である。
店主はヤクザから目を落とすと再び、生焼けのタコヤキ=ボールを回転させ始めた。
無論、自分の土地がヤクザ・テリトリー内に存在していることなどコンセントなことだ。
だが、何処にいる、一城をまんまと取り上げられる奴なんて。店主はそんなヒョットコではなかった。
「インガオホー」ヤクザは懐に手を突っ込んでチャカを取り出しタンを吐く。
「ドーモ」
ヤクザ組の横から声がした。草色のトレンチコートに酸性雨が撥ねる。ハンチングを目深にかぶったその男は続けて言った。
「タコヤキ=ボールは一フネ何個ですか?」
「六個です」
「それじゃ、一フネ。それとアッタカイサケを」
「エーラッシェー」
男は寒そうにトレンチコートの襟をそばだて、高速回転しながら焼きあがっていくタコヤキ=ボールを見つめていた。
「サラリマン? ンダコラ?」ヤクザモノが腰をかがめて男を下から睨んだ。コワイ! ガンツケである。
普段なら、この動作で大抵の者は失禁するが、あいにく男はキカクガイなことをヤクザモノは知る由もなかった。当然である。ソウカイヤに通じるものであればこそ、マッタンのヤクザの悲しいところだ。
また、ソウカイヤにツテのないしがないジアゲ屋の男も同様だった。
「今夜も冷えるね、テンシュ=サン」
男は「正直安い」と彫り付けられたトックリを渡されるとオチョコに注いであおった。
立ち飲みこそ、冷えきったウシミツアワーの楽しみである。「スゴイウマイ」その間、ヤクザモノは渾身の右フックを男のボディに放っていたがかすりもしなかった。「アイエエエエ?」ヤクザモノはまたその横でチャカを弾こうと軽すぎるトリガーを引いた。だがかすりもしなかった。「アイエエエエ?」
ジアゲ屋も首をかしげ呟いていた。「アイエエエエ?」
「スッゾオラー!!」
からぶったパンチをいぶかりながらも水を差されたヤクザモノはモーゼンといきり立ったが、男も店主も意に介さなかった。
ヒットしなかった弾丸をいぶかりながらも水を差されたヤクザモノはモーゼンといきり立ったが、男も店主も意に介さなかった。
「それじゃあ、オアイソしておきます。ここに五百円を一つ」コートをひるがえしつつ、男は視線を店主に放りやったが、返ってきたのは「オオキニマイド!」のこだまだ。
男は去った。店主の動作から器量を見極めたうえでのフジキド……いや、ノントラブルが信条のイチロー・モリタらしい立ち居振る舞いである。
「なんだ、あいつ。ワッケワカンネエ」「さあな、ワッケワカンネエ」
顔も仕草も相似しているヤクザモノが同じように震えていた。寒さゆえではない。コワイ!
一人はからぶった右コブシをさすりながら。一人は煙を漂わせるチャカの銃口を見つめながら。
それもまもなく。ヤクザモノ二人は最初の目的を思い出し、われに返った。ジアゲである。
ジアゲボスは金と権力が欲しいだけだ。アラゴトの役には立たない。
ヤクザモノはLEDボンボリをワンツーパンチで粉砕し、ノーレンの架かっているバイオバンブーを引き抜き、斜にかまえ、そしてタンを吐いた。
「ワッハハハハハ。感傷的な光景だな。実際早い!!」「そもそも早い!!」
「ドーモ。死んだら終わり。私のジアゲのお金いらないです。チャメシマエ。ヤッチマエ!!」
韻を踏んだジアゲ屋の怒号が飛んだ。
バイオバンブーが振り上げられ、振り下ろされる。チャカが構えられ、トリガーが引かれる。
ボンボリが消え薄暗くなった店内で、店主はピックを高速回転させている。
DOGAGAGAGA!! BTOOOOOOMM!!
「へっ、ざまあねえ……って……オボボーッ!?」
ジアゲ屋はタコヤキ=ボール屋「クトニアオオキイ」の軒先が、
サイバーサングラスの向こうで破壊され、粉砕され、千切られ、粉々になるのを見た。
いや、幻視した。そして嘔吐した。ジーザスガカマユデニッ!!
ジアゲ屋のサイバーサングラスにタコヤキ=ボールをつまむツマヨウジが刺さりグラスにひびを入れていた。粉砕! 絶対安心の防塵、防弾加工なのに!? その上、IRCでこの事を伝える手段も無くなった。
左右を固めていたヤクザ(経費をケチった所為だ、クーロンヤクザY-10型)二人はジアゲ屋よりもっと悲惨な運命をたどっていた。
「明朗会計」「食材確保」店主が装着しているヘッドマウントディスプレイの鏡面にLEDの文字が明滅し流れていく。そして……店主が鉄板の上でオケストラの指揮者のようにピックを躍らせたのだ。
「イヤーッ」高速回転。跳ね上がったタコヤキ=ボールがヤクザの腕にめり込む。「グアーッ!!」
「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」「イヤーッ」高速回転。「グアーッ!!」
瞬きをするごとに、タコヤキ=ボールが口当たり柔らかなコナモノにあるまじく、まるで弾かれたベアリングボールのようにヤクザの腕といわず、顔や胸に撃ちこまれていく。さながら卓越したガンスリンガーの所業である。ものの数十秒でヤクザモノは繊維をまとった、ただの肉塊と化した。
「アイエエエエエエ!! オマエは一体……?!」
何者なんだと続けようとしたが、ジアゲ屋は最後まで言い遂げられなかった。
後を追うように、地上げ屋も肉塊と化した。
「沢山撃つと実際当たりやすい」
真理である。であるが、それを実行するのは容易いことではない。
「あの者らを殲滅する許可を私に……」ヤスイサケに酩酊しているかのように熱い息を吐き出し、店主は独りごちた。
誰あろう!! トヨトミ=クランに属し、ヒガシカタを恨みながら死んでいったかつてのグレーターニンジャ、ミツナリのソウルが店主には宿っているのだった。
ひとえに、タコヤキ=ボール屋「クトニアオオキイ」がヤクザモノの手にかからず存在しているのは、ミツナリのソウルが持つ意志のためゆえである。店を襲撃するヤクザモノはすべからく同じ運命をたどる。
店主が店から出てくる。ソウルはもう姿を消していたが、独りの狂ったタコヤキ=ボール・ジャンキーと
ミツナリとを、どうやったら区別出来るのか。否、常人には出来やしない。
店主は、三人の(いや、もはやバイオミートと呼ぶのが相応しい)身体を引っつかみ、苦もなく店裏まで移動させるとニュルニュルと軟体動物が蠢く巨大水槽にぶち込んだ。店主自慢のオーガニックタコ、クトーニアンの生け簀である。オタッシャデー!!
慣れた手つきでの後始末である。こうして幾多のヤクザモノ、ヨタモノ、ジョック、ヒョットコが言葉を残すこともなく、姿を遺すこともなく、闇に消された。
時折襲撃に来るヤクザモノなど、クトーニアンの餌だ。こうして、店主は、ネオサイタマをタコヤキ=ボールでわが世のニルヴァーナに。そしてミツナリはヒガシカタを討伐し天下を獲るという野望で合致していた。
平安より伝わる名言、アブハチトラズとはこのことである。
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